苦難の旅路をゆく正義の女神
賀衛方 著
本書の内容(著者の言葉)
本書は中国の司法改革をテーマとするものである。
過去40年余りの研究、教育、執筆生活を振り返ると、比較司法制度と中国の司法改革は、私が最も力を注いできた分野であり、関係文章は論文、講演、インタビュー、随筆などが含まれた。
参与観察をますます多く行うようになるにつれ、司法改革の方向性についての理解を次第に豊かにし、深化させてきた。司法独立とその環境整備(例えば司法区画の構想)、司法人員の選任、適正手続きの設定、司法管理と意思決定の専門性、法律職業共同体の構築など、これらすべては一つの方向を指し示している。それは、中国司法がいかにして真の職業化に向かうかということである。
しかし、中国の司法改革の進展を理解している人々は、みな独立、公正、職業化への道が困難に満ちていることを知っている。実際、2010年代初頭には、司法改革は停滞に向かい始めていた。参加者として、私は当初、政治制度のより敏感な領域での改革が困難な状況下で、専門化を目指す司法改革が全体的変革の突破口になり得るという信念、あるいは大胆な仮説を抱いていた。改革を通じて司法権がかなりの公正性と高い信頼性を達成した時、それは政党、メディア、議会、土地などの領域の改革を主導し保障する重要なメカニズムとなり、最終的にイデオロギーから具体的な制度まで全方位的な転換を実現できると考えていた。しかし、後の事実が証明したように、この仮説は一方的な願望に過ぎなかった。
直接的なレベルでは、司法改革は政治制度の他の側面と相互に連動し促進し合わなければならない。より深いレベルでは、それは文明の改造であり、観念形態、統治の伝統、社会構造、経済制度など多様で複雑な事項に関わり、短期間で司法改革を推進することは非常に困難であると分かった。中国における正義の女神の運命は、決して順風満帆ではないことが運命づけられていた。このような認識の下で、過去十数年間、私は司法独立を含む憲政体制の発生学的研究により多くの努力を傾けてきた。
本書に収録された文章の一部は以前に発表されたものである。今回の編集過程において、私は各文章に対して多少の修正を加えた。20年余りにわたるこれらの文章を読み返してみて、観点を変更する必要性はないと自覚している。成果については自信を持ていないが、学者としての独立性を保持し、学問を曲げて世に阿ることを拒否できたことは、多少の慰めとなることである。
賀衛方、2025年3月、北京にて
目次
- 前言
- 導言 中国司法改革の正道と邪路
- 第1章 中国古典司法判決の風格と精神
- 第2章 司法独立の近代中国における展開
- 第3章 日本の司法研修制度
- 第4章 「外来の僧」と中国の法官
- 第5章 司法管理の専門化
- 附録1)司法区画の構想;2)審判委員会問題について蘇力教授との討論
- 第6章 手続き正義の六原則
- 第7章 対抗制の導入と適応
- 第8章 弁護士の困境とその根源
- 附録 弁護士自治と社会認同
- 第9章 正義の装い
- 第10章 法廷修辞学九題
- 第11章 法律教育の職業化傾向
- 結語 経験のある道だけを歩む
- 附録 賀衛方司法関係論文目録
著者紹介
賀衛方(が えいほう、1960--)
賀衛方(が えいほう、1960--)は中国の著名な法学者、北京大学法学教授(2023年7月定年退職)、研究分野は法理学、法制史、比較法学。
2000年に「21世紀の中国に影響を与える100人の青年」に選ばれ、2011年に米国『外交政策』(Foreign Policy)によってその年度の世界百人の思想家に選ばれ、2014年にドイツ「商報」(Handelsblatt)によって世界25人の思想家に選ばれ、『司法の理念と制度』、『具体的法治』、『正義を運ぶ方式』など多くの著作がある。
本書は氏の数十年間にわたる「中国司法」についての思考の集大成であり、数多くの実例を取り上げ、近代中国の司法はいまだに中国の伝統的な「断案」の影響から脱出できず、司法独立に必要な環境の欠如、司法独立の全否定、党の指導を受ける司法官選任と案件の審理、正当な手続きの無視、司法研修制度の欠如と裁判官の質の低下、弁護士の有名無実化などを通じて、「独立・公正・専門家化」までなお長い道のりがあるという中国司法の実態を深くかつ全面的に分析している。
主要著作:
- 『法辺余墨』(法律出版社2015三版)
- 『司法の理念と制度』(中国政法大学出版社1998)
- 『具体的法治』(法律出版社2002)
- 『正義を運ぶ方式』(上海三聯書店2003)
- 『我々法律人』(香港城市大学出版社2019)
詳細は本書附録『賀衛方司法論文篇目』を参照
推薦の言葉
「中国は今、重大な岐路に立たされている。中国共産党は今後も実質的に法の枠外に身を置き続けるのか、それとも市民の財産権と基本的人権を保障することによって法の支配を受け入れるのか。このジレンマについて、賀衛方ほど明晰かつ情熱的に語る学者はいない。現代中国を理解しようとする者にとって、彼の著作を無視することはできない。」——ニール・ファーガソン(Niall Ferguson)
ハーバード大学ローレンス・ディッシー歴史学講座教授