憲政と経済
楊小凱 著
本書の内容
本書は楊小凱本人が生前に編集したものであり、「憲政」という主題もまた楊小凱自らが定めたものである。本書には、同主題に関する氏のすべての重要な論文が収められており、憲政と経済発展との関係に対する深い思索が反映されている。本書は当初、中国のある「著名大学」出版社から刊行される予定であったが、周知の理由により生前には実現できず、このたびご遺族のご意志で海外出版の道を選んで出版されることとなった。
しかし近年の中国社会の変化は、著者が生前に下した多くの英明な論断を証明している。すなわち、憲政の支えなしに真の経済改革はあり得ず、イデオロギーの改革なくして真の政治改革はあり得ない。社会的公正なしには真の市場経済は成立せず、「政府の機会主義」に支配された経済発展は、所得分配の不平等を一層拡大させるに過ぎない。土地制度、すなわち土地私有化の改革なしには、中国数億の農民が解放されることも、農村が発展することもあり得ない。制度的自由化が伴わず、単に技術模倣に依拠した工業化は「後発劣位」をもたらすのみであり、政治的独占下の工業化は「悪しき資本主義」を培う温床となる……。憲政を否定する社会には、真の経済発展は決して存在し得ないのである。本書は楊氏が生前編集したもので、「憲政」がない経済発展は人類に危害しか齎さないと訴えたため、出版予定であった大学出版社から断れた。その遺志を継ぎ、遺族はだ。「呪われた経済繁栄」が中国と世界にいかなる結果をもたらすのか、本書の予測が「息が詰まるほど当たっている」(China Thought Express)と評された。
目次
- 序言 張維迎
- 第一部 後発劣勢と憲政転換
- 経済改革と憲政転換
- キリスト教と憲政
- 後発劣勢、共和と自由
- 良い資本主義と悪い資本主義
- 第二部 中国の憲政転換:歴史と展望
- 中国憲政の発展
- コソボ事件から見る中国民主主義と憲政の展望
- 中国統一の利害
- 革命と反革命、民主主義と共和、科学と自由
- 自由と中国の政治改革
- 中国の憲政改革
- どうすれば憲法が尊重されるか
- 第三部 経済自由と憲政転換
- 百年中国経済史読書ノート
- なぜ土地所有権改革が中国経済改革の急務なのか
- 土地私有制と憲政共和の関係
- 中国のWTO加盟の影響
- 自由と経済学
- 中国の経済制度改革
- 自由企業と中国の経済発展
- 中国大陸の所得分配不平等問題
- 中国会社法実施の影響
- 第四部 経済学と憲政建設
- 限定合理性
- 私の理解するハイエクの思想
- 新政治経済学と取引費用経済学
- 所有権経済学と取引費用理論
- 「組織革新」の新経済理論
- 参考文献
著者紹介
楊小凱(よう しょうがい、1948–2004)
経済学者。プリンストン大学博士。オーストラリア・モナシュ大学講座教授、オーストラリア社会科学アカデミー院士、報酬遞増と経済組織研究センター所長を歴任。新興古典経済学および超限界分析の理論を提唱し、その研究成果はノーベル経済学賞受賞者ブキャナンから「現代における最も重要な経済学研究の成果」と高く評価された。この業績により「ノーベル経済学賞に最も近い中国人」と称される。
湖南長沙一中に学んでいた文化大革命期、大字報「中国は何処へ行くか」により投獄され、十年間の獄中生活を送る。その体験を『牛鬼蛇神録』に著す。渡米後は国際的経済学誌に数多くの論文を発表し、代表的著作として『楊小凱学術文庫』(全9巻)ほか経済随筆を多数残した。2004年7月7日、メルボルンにて逝去。
推薦の言葉
「私は、楊小凱が数理経済学者から憲政思想家へと転身していく過程を目の当たりにした。私の見るところでは、小凱の憲政に関する思想こそが、彼の生涯における学術的思索の頂点であり、彼は、自分を育ててくれた祖国に、現代化へと至る現実的な道を探し出したいと願っていた。しかし残念なことに、若くして世を去ったこと、そして中国における言論環境の変化により、彼の憲政に関する多くの論文は公に発表されることがなかった。それでも、偉大な思想が時の流れとともにその輝きを失うことは決してない。今日、世界はますます不確実になり、現在の中国もなお『どこへ向かうのか』が見えないままである。そんな中で、楊小凱の『憲政と経済』論文集が『時代社』から出版されたことは、まさに時宜を得たものと言えるであろう。彼の学術思想は、今なお新鮮で力強い輝きを放っている。」——張維迎
北京大学国家発展研究院経済学教授